


「以心伝心」

ちびたぬきというのは、非常に繊細な生き物である。
言葉は通じるし、意思疎通も出来るのだが飼うのは難しい。
身体の弱さもそうだが、根気よく、しっかり教え込まなければルールは覚えられないし飼い主との関係も築けない。
しっかり躾けられるブリーダーの元での生活を経たものが、まともなペットショップに並ぶ。
だが、この家に住むちびたぬき達は生来から聡明で、謙虚で、団結力があった。

スーパーで買った三つ葉の間から、3匹揃ってポップするという、珍しい生まれ方だった。
今日も顔を突き合わせて、何事かと話し合っている。
この3匹は、かなり仲がよいのが見てとれた。
「ｷｭｯｷｭｷｭ〜」
「ｷｭｳﾝ…ｷｭｳｷｭｳ」
「ｷｭｯｷｭ！ｷｭｰ!」
ただし、小さいのでまだ言葉を喋る事はできない。
「相変わらず何言ってるかわかんねーけど、楽しそうでいいなぁ」


飼い主はというと、突然家に現れたちびたぬきのことは可愛がるつもりでいたが、とにかく適当な性格だった。
トイレは用意しているが、ケージもなく放し飼いだった。
ちびたぬき達も、自由を与えられても別に悪戯などせず、大人しく過ごしていた。
強いて言うなら、気をつけないと踏み潰されそうになるので3匹で固まって行動していた。
「おーい、ご飯だぞ」
飼い主は分量も考えず、昔飼っていた犬用の大皿にざばーっとたぬフードを流し込むが、日によってまちまちだ。
少ない時は多い時の半分以下だった。
あまりに少なくてビックリしてジタバタしたら
「そんなにご飯の時間が嬉しいのか。かわいいなぁ」
と言われて絶句してしまった。
そもそも出されるたぬフードは1番安いやつなので栄養価は低く、味や食感も良くない。
だから正直あんまり嬉しくはないのだが、
ちびたぬき達は食べられるだけ幸せだ、と考え少ない時に備えて多い時はなるべく大事に食べよう、と話し合った。
「なんだ、残してるのか。多過ぎたかな」
だが今回は、まだ皿に残っているのを見て、飼い主は頭を掻いた。
何故そういう経緯に至ったのか、ちびたぬき達の気持ちは欠片も配慮されなかった。


「今度から減らすか」
「ｷｭｳ⁉︎」
「ｷｭｳ!ｷｭｳ！」
「ｷｭｳｳｳｳﾝ！」
ちびたぬき達は慌てて抗議の声を上げるが、
「何言ってるかわかんねーや」
飼い主は首を傾げてから、皿の中身をゴミ箱に捨ててしまった。
「ｷｭｯ…⁉︎」
後で食べようと思っていたから、まだ全然食べてないのに。
これはまずい。
いや確かにこれはまずいけど、そういう意味じゃなくまずい。
言葉が通じないなら、日頃から練習していたジェスチャーで何とかするしかない。
ちびたぬき達は顔を突き合わせて、頷いた。
飼い主がどこかへ行ってしまう前に、即座に実行する。
「ｷｭｰｷｭ！ｷｭｲｰ!」
“聞いてくださいし！”とちびたぬき達が両手を振る。
「んっ？どうしたんだ？」
空の皿を戻しにきた飼い主に、力いっぱい呼びかけた。
1匹のちびたぬきが右手を2回振り下ろし、胸の前で手を合わせて“そこに居てくださいし”とお願いする。

1匹目が大きく伸びをして、両手で曲線を描き“山盛り”を表現した。
2匹目が皿を大きく掲げ、すぐ横に下ろすことで“一旦置いといて”を表す。
置かれた皿の前で3匹目が、両手を使ってぱくぱくさせる仕草を行う。
その後、3匹揃ってお腹をぽんぽん叩き、えへんと胸を張って、”大丈夫！”とやって見せる。

“いっぱいあっても、後で食べるから大丈夫ですし。”

その後、3匹揃って一礼する。
“ご清聴ありがとうございますし”のつもりだった。
ちびたぬき達は連携して、自分達の想いを伝えきった。
これで何とかなるだろうか。ドキドキしながら飼い主の反応を待った。
「えーと…」
飼い主が指で頬を掻いた。
なんか伝えたかったのはわかる。
やたら期待に満ちた目を3匹ともこちらに向けてくるから。
「何か言いたいんだよな？」
3匹は前のめりになりながら、こくこくと頷く。
でも正直ちゃんと見てなかったからなぁ。
飼い主は記憶の中で動きを再現しながら、声を当ててみる事にした。
確か腕を2回振ってたな。その後は拳を握りあわせる動作っぽかった。んで皿を持ち上げて、放り投げてた。皿の前で手を動かして、お腹を叩いて、胸を張って。最後に3匹揃って恭しく一礼してたっけ。
「お前達が言いたいのは…こうだろ？
“力が有り余って仕方がないし“……。
 “両手をあげて野生を解放するし”……。
 “たぬきは力持ちだからお皿だって持てるし”……。
“ゴリラのまね見てし”……。
“ウホウホ”……。
“こんなに元気なのも飼い主さんのおかげですし…いつも美味しいごはんをありがとうございますし”……？
かな。照れる」
何故かゴリラアピールになっていた。
飼い主さんにはウホウホと聞こえたのだろうか。
まさか口を開けてご飯を運んだり、胸を張る動作をドラミングに解釈するとは思わなかった。
しかも何故か最後だけやたら行間を読んで
感謝のダンスにされてしまった。
いや味はどっちかというと変えて欲しい。
ご飯はむしろ食べれてないので力は出ない。
この飼い主さん全然わかってくれないし…。
ちびたぬきは泣きそうになり、3匹揃ってションボリとうなだれた。
「なんでゴリラなんだろ。可愛い奴らだなぁ」
なんでゴリラなのかはこっちが聞きたかったし…。
結局真意は伝わらないまま、飼い主はちびたぬき達の前から去ってしまった。
この飼い主の前には、言葉の壁が分厚すぎる。
早く言葉を覚えて、伝わるようにしなければ。
ちびたぬき達は焦燥に駆られた。


しかし焦ったところで成長出来るわけではない。
あれから必死に皿を持ち上げてｷｭｰｷｭｰ鳴くことで
量が足りないということは伝わったのか、
「なんだ、おかわりか？」
全員で頷いて、量の確保の仕方はわかった。
しかし味や栄養については伝える術が見つからないままで、 ずっと同じたぬフードのままである。
「ｷｭｰｷｭ…」
“またこれだし…”
「ｷｭｷﾞｭｯｷﾞｭ…」
“もう勘弁して欲しいし…“
「ｷｷｭｰｷｭ…ﾀﾇｰ…ﾀﾇｯｷｭｷｭ」
”たまには瑞々しい食べ物が欲しいし…”
全員でうなだれていると、飼い主がぽつりと呟く。
「あれ？やっぱいらないのか」
大慌てで、両手で×を作るちびたぬき達。
「これ腐ってるのか…？」
この際それでもいい。交換してくれるなら、それでもよかった。
「じゃ、新しいやつ買ってきたんだけどこれにしよう」
願い通じたし！ちびたぬき達は歓喜した。
「前はかつお節味だったんだが、健康を考えてみたんだ」
言いながら取り出した箱は、
「ゴーヤー味な！」
飼い主の謎のセンスが、遺憾無く発揮された代物だった。
「ｳｪｪ…ﾍﾟｯﾍﾟｯ…ｷｭｳﾝ…」
“前の方がマシだったし…”
「ｷﾞｭｳｳ…ｷｭｰｷｭｰｷｭ…」
“飼い主さんあらゆる意味でセンスなさすぎだし…”
「ｷｭｳﾝ…ｸｩﾝ…ｸｩﾝ…」
“頑張って食べ切って次のやつにしてもらうし…”
その日から3匹は、いつもよりがっついて、苦い顔して食べ続けた。
そんなに好きなのかと再び買ってこられ、ちびたぬき達は泣きながらもう勘弁してくださいし…と懇願したが、
「泣くほど好きなのか！？」
さらにもう一度買ってこられた。人気が無さすぎて、店から撤去されるまで。
飼い主が買った分しか、在庫は減っていなかった。


ちびたぬき達は、舌を鼻に向けて伸ばしたり顎に向かって伸ばしたり、互いに足を抑えてもらって腹筋したり、トレーニングを続けた。
発生練習だって、欠かさなかった。
合間に、ジェスチャーがもっと伝わるよう表現力の勉強や練習も続けた。
「こいつらテレビ見てたと思ったらまた遊んでるよ。忙しい奴らだなぁ」
飼い主にはぜんぶ遊びに見えたが、ちびたぬき達は本気だった。
それでも、栄養が偏り気味になり身体もあまり大きくなれない現状では喋れるようになるのはまだかかりそうだった。



うどんダンスは本能そのものだ。
親に教えられていなくても身体は知っている。
前世からこれだけは連綿と受け継いできているものなのかもしれなかった。
大きくなるためにはご飯を食べて、しっかり運動しなければ。
3匹は日がな練習し、夜には飼い主の前で踊ってみせる。
ギャラリーがいた方がやる気も出るし、ちびたぬき達はこのガサツな飼い主の感性に訴えて、褒めてもらいたかった。
「おおこれ、テレビで見た事あるやつだ。確か…」
うろ覚えの歌詞を歌い始める。
一応合わせて踊ろうかと思ったのだが、ここでも飼い主の適当さが発揮され、
ちびたぬき達はのっけから盛大にずっこけた。
「うっどーんっ♪おっにっく♪てんっぷっら♪たっぬっき…？」
のっけから間違えている上に、リズムもおかしい。変な歌詞を重ねられたせいで、ちびたぬき達も正解がわからなくなってしまった。
「ｷｭ…？ｷｭｯｷｭｳ？ｷｭｩｩｰ…？」
“あれ…たっぬっき♪からだっけし…？”
「ｷｭﾜｧﾝ！ｷｭｷｭﾜｧｰ！」
“思い出せないしぃぃぃ！”ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「ｷｭｷﾞｭｷﾞｭ！ｷﾞｭｰｷﾞｭｰｷﾞｭｷﾞｭｰ！」
“余計なこと言わないでほしいし！”

「なになに…“一緒に踊るのたのしいし“……
“飼い主さんもっと歌ってくれなきゃやだし“……“今度は2番お願いしますし”……わかった！　
カッレーェ♪ラーァメンッ♪おっでっん♪たっぬっきっ♪…」
「ｷﾞｯｷﾞｭﾜｧｧｧ！」
“どこから来たんだしぃぃいい！”ｼﾞﾀﾊﾞﾀｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「ｷｭ…ｷｭｷﾞｭｯｷﾞｭ､ｷｭｳｷｭｳ」
“あ、でもこないだカレーうどんの素使ってたし”
「ｷｭｷｭｷｭ…？ｷｭｰﾝ…ｷｭｩｩｰ？」
“結構コアなファンなんだし…？でも本当に歌詞わからなくなったし…”



お風呂についても、苦労の連続だった。
飼い主はお酒を飲んで寝てしまうことが多い。
自分は出社前に朝シャワーを浴びるが、
ちびたぬき達の分はたまに忘れ去られることがある。
出来れば毎日入りたい、綺麗好きなちびたぬき達には耐えられなかった。
今日こそはお風呂入りたいし…と、飼い主の脚をぽんぽんと2回叩き、
「ｷｭｯｷｭｷｭｰ!」
“見てくださいし！”
3匹が両手を振った後、揃って礼をして配置につく。
今日はショートコントかな？と飼い主は黙って見ていた。

わしゃわしゃ…しゃがみ込んだちびたぬきの背後に立つちびたぬきが、髪の毛を両手で洗う仕草をしていると、
もう1匹が口に含んだ飲料水を、シャワー代わりにぷーっと吹いた。
唾液混じりの水に濡らされ、髪の毛をもみくちゃにされる役は、腹筋できる回数が1番少ない子ということで事前に決めていた。
代わりに、お風呂に入る時は1番最初に洗ってもらうという事で合意した。
かなり直接的なジェスチャーだったけどこれぐらいじゃないと伝わらない気がするし。
しっぽどころか、髪の毛まで濡らしたのだ。
3匹のちびたぬきは、今度は余計な動きはせずに飼い主をじっと見つめる。
何か答えを求められていると察した後、
しばらく悩んだ様子の、飼い主から出てきた言葉は。
「うどん…？」


「“水が大事だし…うどん…こねこね…たのしいし”…か？」
呟いているうちに、何を納得したのかニコニコし始める飼い主。
「お前ら、よっぽど好きなんだなうどん」
明後日の方向に投げ返されたボールに、ちびたぬき達はキレた。

「ｷﾞｭｷﾞｭｯｵｱ!ｷﾞｭｷﾞｭﾜｧｰ！」
“どこ見てんだしぃぃーーーッ！いい加減にしろし！”
｢ｷｭｷｭｷﾞｭｳｳｳ！ｷﾞｭｯｷﾞｭ！」
“こんなうどん見た事あんのかし！！”
「ｷｭｯｷｭｷｭｯ!ｷｭﾜｧｧｧｱ!!」
“お風呂入れてって言ってんだしぃぃぃッ！”

鬼気迫るちびたぬきの叫びに、飼い主は訳もわからぬまま気圧された。
「お、おお…1匹濡れちゃったからお風呂入った方が良さそうだな…？」
鼻息を荒くしながら3匹とも頷くので、
それでいいのかと支度を始める。
ここまでやって、お風呂を要求しなければならないのかと、ちびたぬき達はため息をついた。



ちなみに、運良く忘れないでいてくれれば飼い主が入る時に一緒に入れてくれるが、
前をまったく隠さずに堂々とぶらんぶらんさせるのが困りものだった。
「ｷｭｰｷｭｳｳ…ｸｩﾝ…」
“こっちは乙女なんだし…もうちょっと慎みを持って欲しいですし…”と伝えたくて両手で前を隠していると
「寒いのかな？」
無遠慮に温かい、というかちびたぬきには熱いぐらいのシャワーをぶっかけられる。
目に泡やシャワーが入るのが痛くて、泣きながらジタバタしていると
「そんなにお風呂嬉しいのか。やっぱ女の子なんだなぁ」
「ｷｭｯ…⁉︎」
“そこで女の子扱いおかしいし…！？”



やたら髪がゴワゴワした時があって、何でだろうしと皆で話し合っていると。
ある日、飼い主がシャンプーとボディソープを間違えていることに1匹が気が付いた。
“シャンプーこっちですし”と台の上に置かれて、ちびたぬきの遥か頭上にあるシャンプーを指してぴょんぴょん跳ねながら伝えたものの、
「“これ好きだし！これ好きだし！”…かな？人間用でも何とかなるんだなぁ」
｢ｷｭ!?…ｷｭｳｳ…」
“この飼い主の理解力やっぱ絶望的だし…“
ちびたぬき達は改めて戦慄した。
当然だが、本来たぬき用シャンプーは別にある。
人間用の成分だと必要な油分を洗い流し過ぎてしまう。
しかも洗い方がとにかく無茶苦茶なので、余計に髪と肌が荒れてしまった。
強い泡立ちがウリのボディタオルで、がしがし擦られるので、モチモチを失った身体に細かい擦り傷ができていた。
昨日飼い主が作っていたカレーのジャガイモの方がもっと丁寧に洗われていた気がする。
これも嫌がらせなのではなく、ただ単に果てしなく雑なだけなのだとちびたぬき達は理解していた。

せめて、“逆ですし”と伝えるしかない。ジェスチャーで。
鏡の前の台を指し、“乗せてくださいし”とお願いする。
3匹が台の上に乗せられ、配置についた。
2本のボトルの間に1匹が立ち、残りの2匹はボトルを挟み込むよう外側に立った。
「ｷｭｰｷｭｳｷｭｰ」
“よろしくお願いしますし”
3匹揃って一礼し、想いよ届けと開始する。
真ん中に立った1匹目がシャンプーボトルを叩くのを合図にして、
2匹目のちびたぬきが、こうべを垂れ両手で洗う動作を行う。
「ｷｭｯｷｭｷｭ…ｷｭｷｭｷｭ」
“こっちはシャンプーですし”
次にボディソープのボトルを指し、
その隣で3匹目のちびたぬきが手を使って身体を洗う仕草を見せる。
「ｷｭｰｷｭｯｷｭ…ｷｭｩｩｰ」
“こっちは身体洗うやつですし”
今回もやりきった。
3匹はドキドキしながら、飼い主の反応を窺った。

流石に得心がいったのか、飼い主は大声を上げた。
「…あぁっ！？なんてこったーーー！」
「ｷｭｰｷｭｷｭ…ｷｭｯｷｭｳ…」
“間違いに気づいてくれたし…やれやれだし…”
「何だお前ら、自分で洗えるのかよー！
   正直気を遣うし、めんどくさかったんだよ！」
「ｷｭｳ…？」
“えっ…し”
「じゃ、明日から自分で洗ってくれよな！」
いや、まあ、
これでシャンプーとボディソープを間違えられる事はなくなったんだけど。
「ｷｭｷｭｳｰ…ｸｩｩﾝ…」
“もう洗ってくれないんだし…？そうかし…。”
何故だかもやっとするちびたぬき達であった。


しかしその後も、受難は続いた。男性のやり方なのか、タオルで荒々しく拭かれるので、髪の毛がバサバサになる。
｢ｷｭｳｳ…ｸｩﾝ､ｸｩﾝ…」
“変な癖ついちゃったしぃ…”と1匹が跳ねた髪を触ってションボリしていると、もう1匹が注意を呼びかける。
｢ｷｭｷｭｷｭ！」
“あっ待つしみんな気をつけるし…”
｢ｷｭ…ｷｭｳｰ…」
“アレが来るし！“
「そうそう、こいつら尻尾が濡れるのはイヤなんだったっけか」
飼い主は引き出しからドライヤーを取り出した。
「ｷｭｷﾞｭ…！ｷｭｰｷﾞｭｳｳ…！」
“逃げるし…！避難するし…！”
髪もしっぽも乾かしてくれるのは大変ありがたいのだが、
ボタンを最大に押し込み、最強・最高温度の大雑把さ全力全開なので、ちびたぬき達は逃げ回るハメになる。

「ｷｭﾜｧｧ！ｷｭﾜｧｧｧ！」
“あついし！あついしぃぃ！”
「ハハハ、はしゃぐなってば」
脱衣所の扉も、風呂場の扉も閉められているので、結局走り回れるスペースなど大してない。
その後、全員が温風の暴威に晒された。
ちりちりになったしっぽの毛を、涙目でふーふーする。
“もっとやさしく乾かしてくださいし”
と伝えるのにどうすれば良いか、3匹の悩みは尽きないのだった。




ある日、ちびたぬき達は戸惑っていた。
飼い主が、自分たちの服を洗濯してくれたのは良いのだが。
洗濯機にかけて、ボタンを押すだけ。
シワシワになり、生地もだいぶ縮んでしまった。
ちびたぬき達は、へそ出し7分丈袖ミニスカートパンツ丸見え状態になってしまった。
ションボリどころの話ではない。
モチっとしたお腹がはみ出して、
途中までしかない袖はなんだか不安になる。
洗い立てで綺麗でも、パンツが見えるのは、やっぱり恥ずかしい。

「あれー？手洗いの方が良かったかな…新しいの売ってないのかな」
「ｷｭｷｭｷｭｰｰｰ!」
“売ってるわけないしぃぃ！”
「ｷｭｳﾝ…ｷｭｳ､ｷｭｳ…！」
“生まれた時からの唯一の財産なんだし！”
「俺が作ろうかな？」
「ﾀﾇｩ…ｸｩﾝ…ｸｩﾝ…」
“それはいいし…確実に今より悪くなるし…”
ちびたぬき一同は、首を振って答えた。

「さぁ、みんなで公園まで散歩しような」
恥ずかしいから絶対イヤだと皆で抗議したが、
飼い主は聞く耳を持たなかった。
「さぁいこう！今日はいい天気だぞ！」
諸手を挙げて足で地団駄踏んでも、喜びの踊りに解釈されてしまう。
この怒りはどうすれば伝わるんだし…脇に抱えられながら、3匹は強制的に連れ出されて行った。


「プクク…あいつらなんだし…」
道ゆく3匹のへそ出し7分丈袖ミニスカートパンツ丸見えちびたぬき達は、野良たぬきに笑い物にされていた。
ヒソヒソとこちらを見て話をされながら、ションボリ、トボトボ。
自分達より大きく、数も多い野良たぬき達に3匹は反論する気にはなれなかった。
だが、その嘲笑には飼い主も感づいたらしく。
「おいそこのたぬき！」
憤り、1匹の前に立ちはだかった。
野良たぬきは笑いを堪えきれず、両手で口元を抑えながらも笑い声がこぼれていた。
「なんだし、こいつらの格好…にんげん、お前の趣味かし…プックク…」
「よそのたぬきの見た目を笑うなんてどうかしてるぞ！」
至極真っ当なことを言っている、とちびたぬき達は驚いた。あんたのせいではあるんだけどし。
安易な暴力には訴えないところはちびたぬき達にとっても嬉しく、誇らしい事だった。
でもちょっと、声量抑えて欲しいし…
でかすぎるし…。

あまりに大声で話すので、何事かと集まってきていた近隣の野良たぬき全員がその様子を黙って見ていた。
ギャラリーが多くなる分だけ、ちびたぬき達も衆目に晒されることになる。被害はむしろ拡大していた。

「ちょっと見た目が違うだけで馬鹿にするのか！ふざけるなッ！」
「ｷｭｯｷｭｳ…」
“あの…もういいし…たぶん反省してそうですし…”
飼い主は全く意に解さず、言っているうちにだんだん勝手に過熱してきている。
ちびたぬき達はもういいって言ってるのに…と言いたげに全員が俯いてもじもじしている。
野良たぬきはそこまでの本気をぶつけられ、しらけ始めていた。
「冗談だし…そこまで怒るほどの事でもないし…？」
両手でどうどうと制しながら、野良たぬきが困り始める。
「俺はこいつらを愛してるんだよ！冗談でもバカにするのは許せないぞ！」
ちびたぬき達は顔を上げて、飼い主を見た。
本気で言っているらしく、表情は真剣そのものだった。



「す、すみませんでしたし…もうわかりましたし…」
あまりの迫力にドン引きしながらも、野良たぬきはこの場を収めようと謝罪の意を表する。
「ｷｭｳｳ…ｷｭ､ｷｭｷｭｯ…」
“あの…そろそろ勘弁してやってし…”とちびたぬき達が裾を引っ張り始めるが
「ああ！？わかってるよ！許せないよなぁ！たぬきでもイジメは許せないよなぁ！」
ダメだし…わかってないし…気持ちぜんぜん伝わってないし…。
ちびたぬきは小さく震えるしかなかった。
「あの…どうかこの通りですし…そろそろゆるしてくださいし…」
もう見逃して欲しいと、野良たぬきは自主的に土下座を始めた。
力なく、しっぽが左右に揺れる。
「なんだそれ！俺はこいつらに謝れって言ってるだけなんだよ！形だけ人間の真似したってダメだぞ！！！」
いやもう必死になって謝り続けてるし…あんたの声がデカ過ぎて耳に届いてないだけなんだし…。
「お前には人の心ってもんが無いのかよっ！」
ないし…だってたぬきだし…。
飼い主さんにもあるか怪しいし…。
これ、何の涙だし。ちびたぬき達が拭う。


どうすればいいのかオロオロしだす野良たぬきを見て、他の野良達は恐怖を覚えていた。
「まだ勘弁してもらえないし…！？」
「トイレから戻ってきてもまだやってるし…」
「あいつやばいし…」
もはやちびたぬき達の珍妙な恰好など野良たぬき達にはさして問題ではなく、
服従の姿勢を見せても絶対に許してくれない人間の異常さの方が際立っていた。


叱られたぬきは、もはや許容限界を超えており、泡を吹いて失神していた。
「ああっ！？たぬき寝入り決め込んでるのか！くっそーこっちが手を出さないのをいい事に！でも俺は手を出さないからな！
出した瞬間にお前以下のクソになっちまうからなぁぁ！」
いやもう帰ろうし…。
ざわつく周囲、ｷｭｰｯと鳴るお腹。
お昼ごはんまだなのに、このやり取りは日が暮れるまで続いたのだったーーー。



そして、ちびたぬき達は。
「あっ…あのちび達…」
後日の散歩中、野良に姿を認められ、またこの格好のせいで否、暴走する飼い主のせいで恥ずかしい思いをさせられるんだし…と、うんざりしていると。
「お気の毒にし…」

一目置かれるというか、距離を置かれるようになってしまった。



“そのうちストレスで死ぬか、うっかりで殺されちゃうし…”
飼い主のいびきで寝れない3匹は、タオルケットを頭に被せて防音しながら、うつ伏せの体勢で話し合っていた。
微妙にサイズが合ってないものを買ってこられたせいで短く、パンツ丸出しの下半身としっぽがはみ出している。

“じゃあこっそり出ていくし…？”

“でも何も言わずに行っちゃったら、飼い主さんビックリしてジタバタしちゃうし…”

“ここまで育ててくれたのにそれは申し訳ないし…“

“お世話になりましたしって挨拶のジェスチャーするし…？”

“わかった！これからもよろしくな！って言われそうだし…”

“あるし…それありうるし…”


そもそも逃げ出したところで、あの一件でこの辺りの野良には仲間に入れてもらえないだろう。
格好はこんなんだし。
完全に逃げ道を塞がれ、詰まれてしまっている。


けれどもちびたぬき達は、言い合いながらも本気で出ていこうと考えているわけではなかった。
『俺はこいつらを愛してるんだよ！』
公園での一言は、ちびたぬき達の宝物になった。
日々の中でも、愛情は感じている。どうしようもなく不器用だけど、きっと自分達は愛されている。


“やっぱり…喋れるようになるまでがまんするし…？”
うん、と残りの2匹は頷いた。

“言葉が通じるようになっても、あのヒトに想いが通じるかわかんないけどし…”

“その時はその時だし…”

自分達がちびじゃなくなって、言葉を伝えた時。
あの飼い主はどんな反応をしてくれるんだろう。

“最初に言う言葉は、何にしようかし”

“やっぱり文句だし…？”

“いやいや、感謝の言葉だし…”

やがて来るであろう未来に想いを馳せて、ちびたぬき達は顔を見合わせて、ししし、と笑い合った。



だが、飼い主とのズレが、ストレスとなって喋ることができないまま、ちびたぬき達は死んだ。
飼いたぬきであれば少なくとも5年は生きるはずだったが、
寿命は半年余りに縮まってーーーただ大きな怪我や病気をする事はなくーーー3匹揃って、短いたぬ生をひっそりと終えたのだった。


朝、サバ味のたぬフードを持ってきた時。
起きてこないと思ってタオルケットをめくると、仰向けでションボリしたまま、中で冷たくなっていた3匹を見て飼い主は泣いた。
手厚く葬り、墓標にはいつか渡そうと思っていた、3匹分の勲章をかけてやった。
作業を終えて、しんとした部屋で。
その日の食事は、喉を通らなかった。

老衰にしては、早すぎる。
どうして死んでしまったのだろう。
考えても詮ないことより、飼い主の意識はやがて、あのちびたぬき達との思い出に向けられた。
短い間だったけど、あいつらもきっと幸せだったはずだ。
だって自分は、あんなにも楽しかった。
言葉は通じなくても、俺たちはわかり合えていた。
ありがとう、ありがとうーーー。

前を向かなきゃな。あいつらが草葉の陰でションボリしてしまう。

振り返るばかりでもいられない。
大事な思い出を心の奥に仕舞おうとして、ふと思い出す。
そういえば初めの頃、何故かいきなりゴリラのモノマネを見せてくれたりもしたっけ。
あいつら、ほんと色んな芸を見せてくれてお茶目だったなぁ。

飼い主は、はたと気がついた。
あれは…モノマネじゃなかったのか？
まさかあいつら…ゴリラだったのか…！？
見た目完全にたぬきだったのに。
気づいてやれなかった。
いくらたぬフードを与えても大きくなれないわけだ。
だとしたら、あいつらの事、ひとつだけわかってやれてなかった。
くそっ…すまない…すまない…。

そして飼い主は、それから3匹のお墓にりんごやバナナを供えるようになりました。

いや、違うし。
ぜんぜん違うしーーー。
リポップすることを選ばず、お空からその様子を眺めていたちびたぬき達の声は、いつまで経っても飼い主には届かないままなのでした。


オワリ